
SPECIAL
インタビュー
異修羅 Season 2
原作 珪素先生インタビュー
16人の修羅、16人の主人公がいるということが重要な要素
――第2期もいよいよ佳境を迎えました。ここまでご覧になった感触はいかがですか?
作画、演出の面でも、声優さんのお芝居の面でも、こんなに素敵なアニメ化をしてもらっていいのかなというレベルの完成度で、作者として幸運だと感じています。原作読者の方からも再現度が高いという反響をいただいていますし、素晴らしいアニメ化をしてくださった関係者の皆さまに感謝をお伝えしたいです。
――少し遡りますが、アニメ化のお話がきたときの心境は覚えていますか?
確か、実家で夕ご飯を食べているときに当時の担当編集さんから電話が掛かってきたんです。「急にアニメ化が決まった」と。「作者が了承しないとアニメ化できないので、ぜひ承諾してください」と言われ、ぜひやらせてくださいとお答えしました。本当に急なお話だったので、びっくりしたのを覚えています。
――喜びよりも驚きのほうが大きかった?
嬉しいのはその通りなのですが、「やったー!」と激しく喜んだというよりは、「え、本当かな?」という気持ちのほうが大きかったです。企画が具体的に進んでいく中で、本当にアニメ化するんだなという実感が沸き、じわじわと喜びが持続していきました。
――アニメ化が決定したとき、SNSでのファンの盛り上がりもすごかったですよね。
『異修羅』が好きな人はいつもものすごい熱量で推してくださるんです。ただ、私も含めてなのですが、そんな読者の方でも本当に『異修羅』がアニメ化するとは考えていなかったのではないでしょうか。それだけに読者の方にも大きな驚きと喜びがあったのではないかなと思います。
――ではアニメの制作にあたって、珪素先生はどのような関わり方をされたのでしょうか?
担当編集さんからの提案で、脚本会議には基本的に参加させていただきました。原作をアニメの尺に収めるためにはどうしたらいいか、アニメに落とし込むにあたって変えていい場所はどこで、変えるとしたらどう変えるか……といったことを話し合いながら、原作者としての意見を提案させていただきました。
――削ったり、変えたりする際の基準はどういったものでしたか?
修羅が16人いる、つまり16人の主人公がいるということが重要な要素なので、その周辺の情報を多少削ることになっても、16人のキャラクター性がわかるようにしたいと考えていました。たとえば、第1期の通り禍のクゼだったら、当初は鎹のヒドウとのやりとりがもう少し多かったんです。その分、孤児院で通り禍のクゼと子供が遊んでいるシーンが少なめだったので、通り禍のクゼの魅力を出すなら子供たちとのやりとりにウエイトを置いたほうがいいのではないかというようなことをご提案しました。
――高橋丈夫総監督や小川優樹監督、シリーズ構成の猪原健太さんとのやりとりで、何か印象に残っていることを教えていただけますか?
地図について聞かれたことですね。アニメ化すると国や街がどういう位置関係にあるのか設定を考える必要が出てくるんです。異世界ものを書かれている方で地図まで作っている方はあまりいないかと思いますが、これは絶対に作っておいたほうがいいです。『異修羅』のコミカライズでも聞かれたことがありましたから。
――映像になると、どこにどんな場所があるかを考えないといけませんからね。
そうですね。第1期の終盤の舞台となったリチア新公国も、やはり映像になると全部が映るので各施設の位置関係を決めないといけないんです。“冷たい星”はどこから放たれたのか、晴天のカーテのいる場所はどこなのかといったことを、原作の描写と整合性を取りながら決めていきました。少し時間がかかってしまい、スタッフさんにはお手数をかけたと思いますが、作中にあったこととアニメで描かれているものの齟齬はほとんどないと思うので、『異修羅』ファンであればあるほど楽しんでいただけると思います。
――ほかにも新たに決めた設定はあったのでしょうか?
窮知の箱のメステルエクシルと最初に戦っていたレシプトとネメルヘルガは、原作に何か立派な設定があるわけでもなく、ビジュアルもまったく考えていませんでした。アニメ化したことでとてもカッコよくて、激しく動くキャラクターになったので、これはアニメ化の賜物です。
――珪素先生とアニメスタッフの間で出し合ったアイデアで何か思い出に残っていることは?
戒心のクウロの天眼でしょうか。発動したことがわかりやすくなるように目が光る演出になっているのですが、それに加えてより動作のあるアクションを追加したいということで、天眼を発動するときにかかとを鳴らすことになったんです。これはかかとを鳴らしたときの反響を天眼で捉え、知覚能力を高めているということで、設定的にも理にかなっています。本当に素晴らしい提案をしていただきました。
――漂う羅針のオルクトが歌った「オルクトの歌」は珪素先生ご自身の作詞ですよね。珪素先生のXを拝見したところ、先生からのご提案だったのかなと感じたのですが。
そうですね。原作だと歌詞は一番のみなのですが、二番まで作ってほしいということで私が作詞しました。私しか知らないストーリーの歌を作ってもらうことになってしまうので、作詞家の方に苦労させるよりも自分で書いたほうがいいだろうという判断です。頑張りましたが、歌詞はあまり気にせず歌のほうを聴いてください(笑)。
――いやいや(笑)。でも、漂う羅針のオルクト役の八代拓さんの歌声も素晴らしかったです。
漂う羅針のオルクトは、原作でも人智を超えた歌唱の才能があると設定されているので、本当に歌の上手な方にやっていただけたのはありがたかったです。同じように、黒い音色のカヅキには水樹奈々さんという、個人的にこの世で一番歌の上手い声優なのではないかという声優さんを当ててくださったのも嬉しかったです。
――第21話のサブタイトルが「黒い音色のカヅキ」から「音斬りシャルク」に切り替わる演出も原作通りでしたね。
文字だけで切り替わるという引き算の演出、スマートな見せ方が素晴らしくて、なんてセンスがいいのだろうと思いました。
送られてきた声優陣のリストは“限度”を超えた豪華さ!
――声優陣も本当に豪華ですが、珪素先生から何かリクエストは出されたんですか?
第2期では候補者リストが送られてきて、その中からイメージに合う声優さんを選んでくださいと依頼されました。有名声優さんばかりで、詳しくないなりにサンプルボイスをすべて聴かせていただいて、こちらの方にお願いしたいですとお伝えしました。
――音響スタッフさんがすごく頑張ったんでしょうね。
きっとそうでしょうね。仮に私が自由に選んでいいよと言われ、すべて有名声優で固めようと思っても、このキャスティングにはならないです。限度を超えていると思います。(笑)。
――(笑)。では、第2期を振り返られて特に気に入っているエピソードを教えていただけますか?
一つは、第18話の絶対なるロスクレイです。絶対なるロスクレイ本人は詞術を使っておらず、遠隔通信で複数の詞術士が詞術を使っているのですが、どう表現するのかなと思ったら、ちゃんとロスクレイ自身が得体の知れない詞術を使っているとも見えるような演出になっていたんです。すごくいい見せ方でした。原作だとマントについていたラヂオの鉱石が腰についていたのもよかったです。アニメ制作サイドから腰につけたいと提案されるまで気づかなかったんですが、ちゃんと固定されることになるので、確かにこちらのほうが動きやすいですよね。いいアイデアをいただけてよかったです。 もう一つは、第19話の無尽無流のサイアノプでしょうか。これは原作を知っている方ほど同じ気持ちだったと思うのですが、作者の私自身が映像化してどういう動きになるのかまったく想像できなかったキャラクターなので、ここまでできるのかと心から感服しました。サイアノプの格闘描写は、そもそも原作で全ての動作を緻密に書いてはいませんでした。なぜなら、無尽無流のサイアノプは想像もできないような格闘をするという設定なんです。でも、アニメではちゃんとスライムの格闘、スライムの技として描かれているんです。よくこんなことを考えられるなと、改めてアニメを仕事にされている方のすごさを実感しました。
――無尽無流のサイアノプは、動きも細かかったですね。
『異修羅』は絵コンテもチェックさせてもらっていましたが、無尽無流のサイアノプの動きは物理的にもちゃんと考慮されているんです。パンチやキックを突き出すときに、ちゃんと反対側にカウンターウエイトのような感じで質量を動かしている描写があります。細部までちゃんと考えられているんだなと感激しました。
――前半だと「微塵嵐アトラゼク」は前後編にわたる見どころ満載のエピソードでした。こちらの感想はいかがでしたか?
おぞましきトロアは文章で書くのは簡単なのですが、絵にしたときにどう動かせばいいか非常にわかりづらいキャラクターだと思います。でも、いっさい無駄のない動きで武器を切り替えながら戦うという、おぞましきトロアらしい戦闘スタイルを再現してくださって、本当にかっこよかったです。そのうえで窮知の箱のメステルエクシルと微塵嵐が絡む乱戦を再現していただきました。
――地平咆メレのカッコよさ、戒心のクウロと彷いのキュネーのドラマもよかったです。
原作第2巻の見せ場にふさわしい力の入りようで、大変感謝しております。
――個人的には、彷いのキュネーがかわいかったです(笑)。
本当にかわいかったです。書いてる自分でも気付いてなかったんですが、映像になって声がつくとこんなにかわいくなるんですね。
『異修羅』は修羅たちがどのように戦い、関わり合っていくかという群像劇
――アニメ化されたことで、原作にフィードバックした設定はありますか?
結構ありますが、大きなところだと星馳せアルスの銃、静かに歌うナスティークと鵲のダカイの攻撃方法でしょうか。『異修羅』世界ではマスケット銃が最初に伝わり、灰髪の少年が改良を続け、今のボルトアクションライフルになったという設定があります。アニメ化に際して星馳せアルスの銃はその中間辺りの機構という設定になったので、それを原作でも描写しています。
――静かに歌うナスティークの攻撃というのは?
離れた敵も殺せるように、何か攻撃が伸びるような絵にしたいという依頼がありました。最初は瞬間移動も考えたのですが、アニメで表現するのは難しいそうなんです。それでいろいろと話し合いをした結果、静かに歌うナスティークの羽根がざわざわと伸びてナイフを突き立てるような描写になりました。原作でもアニメ化以後はそれを踏まえた描写にしています。
――鵲のダカイの攻撃手段については?
ラズコートの罰の魔剣の攻撃は、コミカライズで出たビジュアルがアニメにも採用され、そこから原作に繋がりました。コミカライズだとダカイに倒された機魔(ゴーレム)には核がきれいな円形で撃ち抜かれた痕があるんです。アニメも同じ描写で機魔が倒されていたので、どういう攻撃をしたのかBlu-ray BOX(第1期)の特典小説で描写しました。アニメとコミカライズから逆輸入して設定したものです。
――そうだったんですね。特典小説では鵲のダカイの過去が描かれました。
鵲のダカイは凄腕の盗賊なので、冗談で食券制の店でも食い逃げができて、食い逃げをしたという逸脱でこの世界に飛ばされてきたと言っていたんです(笑)。それで、特典小説では食券制の店でいかに食い逃げをするかというネタも入れてお話を書きました。
――お話をうかがっていると、各キャラクターの能力や武器など細かく設定されていながらも、余白も用意しているという感じなのでしょうか。
そうですね。設定を決めているつもりでも、想定外の設定を聞かれることがあるので、設定をつけ足すことがあります。もちろん、作中でこういう状況になったらどう対応するのか、どう備えているのかというのは決めておかないといけないので、基本的には固めていますが、絶対ではないんです。作中で出したものは嘘ではない。でも、出してない部分はその都度決めるということがあります。
――Xでは「#異修羅一問一答」で、ファンの質問にも答えていますよね。あの企画で設定が固まることもあるんですか?
ええ。あれは、7割以上その場で作っています。回答を元に話を作ることがあるので、私にもメリットがあるんです。たとえば航空技術について聞かれたことがあり、その回答で考えた設定が原作第7巻に入っています。あとは星馳せアルスの装具は誰が作っているのか。この回答はアニメのキャラクター人気投票の書き下ろしSS(※最強の人気キャラ決定戦 「星馳せアルス」第1位記念書き下ろしSS)に繋がりました。
――読者の質問がアイデアの源泉になっている部分もあるんですね。
一人で考えていたらわからないことなので、読者の皆さんには感謝しています。
――一つうかがいたかったのですが、『異修羅』は脱落していくキャラクターもたくさんいますよね。「生き延びさせればよかった」と思ったキャラクターはいるのでしょうか?
それはほとんどないです。強いて言うなら、海たるヒグアレくらいですかね……。ビジュアルも能力も気に入っていましたし、人気のわりにはすぐ死んでしまったので。負けても仕方ないという状況で負けたこともあり、ちゃんとした戦場だとどれぐらい戦えるかは描写してみたかったです。それもあって、第2期のBlu-ray BOXの特典小説では海たるヒグアレが戦いますので、楽しみにしていただけたら嬉しいです。
――それは朗報ですね! では、最後にいよいよ迎える最終回の見どころを教えていただけますでしょうか。
最終話に登場するキャラクターたちは、この世界観がどうやって構築されたのかの根幹にあたるキャラクターたちです。“本物の魔王”と、“本物の魔王”に挑む者、全員が本当に強く、後々まで影響を及ぼしているところがたくさんあります。 そして『異修羅』はトーナメントを軸にしているお話ですが、“本物の魔王”の恐怖でめちゃくちゃになった世界にたくさん現れた修羅たちが、どのように戦い、どのように関わり合っていくかという群像劇でもあります。その起点となる重要な過去編になるので、ぜひ最後まで見守ってください。