10月22日(火)~11月4日(月)に開催した
最強の人気キャラ決定戦の投票結果を発表!
最強の人気キャラ決定戦
「星馳せアルス」第1位記念書き下ろしSS
“本物の魔王”の時代は、“星馳せ”がいくつもの伝説を殺した時代でもある。 中央山脈は正統北方王国の北西に位置し、文字通り大陸中央を大きく隔てる、過酷な僻地だ。その一角――地獄への穴のように落ち窪んだ盆地は、鋭い白骨じみた木々の林立する沼地である。 下界からこの場を訪れる者など存在しないに等しかったが、棘沼と呼ぶ者もいる。 暗がりのリズンという。長い髪を後ろでまとめた、物憂げな顔立ちの森人の女である。 両手の杖の反動で跳ねるように、険しい岩場を下る。長いコートで隠れているが、リズンは左足を喪っていた。とはいえ中央山脈での孤独な暮らしも長く、さしたる生活の支障はない。 「……すごいな」 岩場を跳ね下りた先に横たわっているのは、沼から這い出そうとしたまま硬直している、巨大な蚯蚓めいた生物の死体だった。見えているだけでも25m近くの体長がある。 潮解のシュゲスターと呼ばれていたが、詞術の通ずる心を持った存在ではなかった。はるか古代に海から訪れたと思しき、得体の知れぬ生物種である。 そして、リズンがこの巨獣を殺したわけではない―― 「外鰓が正確に撃ち抜かれている。当てられるものなのか? あんな飛び方をしながら……」 「…………練習したんだよ」 空から降り立った青い鳥竜が、リズン以上に陰気な声で応えた。 鱗の青い鳥竜はそう多くはない。だがそれ以上に奇怪なのは、鳥竜にも関わらず腕が生えていることだった。それも、三本も。 星馳せアルス。三本腕を有する鳥竜の名を知る者は、今やリズンだけではない。 「ふー……練習ね。その……銃とかいうんだっけ? 弓とは違うの?」 「……うん。弓よりおれに合ってるな…………弾さえ込めれば、片手で撃てる……」 リズンはその様を直接目撃したわけではないが、知性や心を持たぬシュゲスターでは、空から一方的に狙撃するアルスに対し、戦闘にすら持ち込むこともできなかったはずだ。 もっとも、その程度で封殺できる怪物が、伝説となるはずもない。不可解な点は別にある。 「その銃が特別なのかい? シュゲスターの表皮を破れる武器なんて、歴史上どこにもなかった。外鰓が弱点だなんて話も聞いたことがない。不思議だ」 「別に、こいつを殺せたのは……そこを狙ったからじゃないよ」 アルスは巨獣の死骸に近づくと、使い込まれた短剣を抜いた。 「…………呼吸とは別の周期があったんだ。体組織の緊張が緩む周期……何発か撃ち込んで、こいつの攻撃遮断の周期を探ってたんだ……」 シュゲスターの目のない頭から胴にかけて、長く、大きく肉を切り開く。 洪水のように溢れ出す青黒い体液の中から、アルスは何かを取り出した。 「……やっぱりだ。こいつを飲み込んでたんだよ。“死者の巨盾”……」 おぞましい怪物とは正反対の、小さく美しい星のような装具だった。 「オーマ王時代の……失われた魔具か! あれはてっきり、物語の話だと……」 アルスはそう考えなかった。伝承の時代や地域から、合致する伝説に思い至っていたのだ。 刃も矢も、毒さえ通さぬという無敵の魔具。その代償として、使った者はそのたびに死者へと近づき、長く生きてはいられない。 (……潮解のシュゲスターには、尋常ではない生命力があった。ずっと、苦しんでいたのか……。蝕まれては自らの修復力で再生してしまう、終わりのない不死の地獄に……) 激痛に悶え、全てを殺し尽くしても、飢えて渇いても、ずっと終わらなかったのだろう。 棘沼には、シュゲスターの食料となる生物すらない。彼が絶滅させてしまったからだ。 「……この宝は、おれのだ。報酬とは別にもらう」 「構わないよ。そんなおっかないもの、私には必要ない。それにシュゲスターの駆除を頼める冒険者なんて、この世に君くらいしかいないだろうしね……」 リズンはとうに下界の世を捨てた仕立屋だ。客と呼べるものは、今はアルス程度のものである。 「討伐報酬に、新しい装具を作ってやるよ。動きを邪魔しないし外れたりしない、しっかりした革の鎧だ。その銃とかいう武器を使うなら、遮光機能付きの保護眼鏡もいるな……」 “本物の魔王”の時代。星馳せアルスは、世界の果てまで踏破しようとした冒険者だった。 この世界は広い。 物語の魔具は実在し、分類不能の怪物が潜んでいる。 中には、わざわざ鳥竜の装具を仕立てるような、変わり者もいる。
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たくさんのご投票ありがとうございました! 2025年1月8日(水)からの TVアニメ『異修羅』第2期放送をお楽しみに。